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第18話
「落書き天国 キャプテン自信喪失!?」

1984年02月24日放映


タウト星に向かうジェイナスの船内では子供達のいたずらにスコットが頭を悩ませていた。火災報知器を押してしまうマルロとルチーナ、ニュートロンバズーカを船体に激突させるケンツ、そしてとうとう調理器が133人分もの料理を作ってしまう。マルロとルチーナを叱りつけるスコットだったが、実はそれはマニュアルをマスターしようと必死だったペンチのミスによるものだった。緊張を解くために船内でディスコ大会の開かれる中、ジェイナスは一路タウト星を目指す…

第17話でカチュア及びジェイナスの目的地を巡ってのストーリー展開が一区切り付いたこともあり、この第18話から次のストーリーの転換点となる第22話の直前まではキャラクター描写が中心のエピソードが連続します。実際には「放映延長か、打ち切りか」というスケジュールのもとでこういった構成を取らざるを得ない制作事情によるものだったそうですが、これまで描き切れなかったキャラを立たせるためのエピソードが多数用意され、その結果これらの回でその後の方向性が定まるキャラが続出します。言い方を変えれば、この第18〜21話こそが「バイファム」本来の物語だったのではないか、という捉え方もできそうです。

…タウト星に向けての航路設定も完了し、順調に航海を続けるジェイナス。艦内では仕事のないマルロとルチーナがあちこちの探検をはじめます。ムビオラルームや図書館、第2ブリッジなどの探検に飽きて格納庫にやって来た彼らですが、そこではケンツがパペットの肩にレッドベアのマーキングを施していました。くすねてきたペンで通路の壁に落書きを始めるマルロとルチーナ。彼らは落書きの最中に火災警報を押してしまいスコットに大目玉を食います。ロディの発案により7階の通路は落書きスペースになることが決まり、マルロとルチーナはまた落書きの続きを始めますが、それも束の間今度は食事当番の手伝いをすることになります。自動調理器の人数設定中に彼らに呼びとめられ、うっかり人数設定を一ケタ多い133人に設定してしまうペンチ。マルロとルチーナはそうとは知らず防寒服を身にまとい、材料を集めに冷凍庫に向かいます。

その頃ケンツとシャロンは高ゲタをパペットに取りつける作業をしていました(第16話での一件もあってか、彼ら二人はこの時点ですっかり名コンビになってしまっています)。船外作業の許可をスコットに取りつけたケンツは早速トウィンクルヘッドを着用して船外に出ます。実は彼の目的は格納庫で見つけたニュートロンバズーカの試し打ちをすることにありました。船外でニュートロンバズーカを構えるケンツをブリッジから見て頭をかかえるスコット。
そこに今度は自動調理器から食事があふれ出ているとの知らせが入ります。133人分の食料を大慌てで受け止める子供達。ペンチから事情を聞いたスコットは、食事当番の手伝いをしていたマルロとルチーナを叱り付けます。そこに走る振動。ニュートロンバズーカの試し打ちをしたケンツがバズーカをドッキングカーゴにぶつけてしまったのです。テーブルに山積になった食事を守ろうとパニックになる子供達。
さまざまなトラブルの連続に、キャプテンとしての自信を喪失してしまうスコット。そんな彼らの横でペンチは自分の責任を感じて食堂を飛び出していってしまいます。その日の夕食時、スコットが全員に話を切り出そうとしたその時、船内放送からペンチの声が聞こえてきました。今回の事件は、航路設定マニュアルをマスターしようとしていた彼女が設定を誤ったことが原因だったのです。真相を告白し、皆に詫びを入れるペンチ。私達には仕事が多すぎる…とペンチをねぎらうクレア。ひとまず事件は解決し、スコットはなんとか「話」をするのを思い留まりました。

そして、ディスコでストレスを発散する子供達。「これで本当にタウト星に行けるのだろうか…」当面のトラブルこそ解決したものの、キャプテンとしてのスコットの苦悩は深まる一方でした。

■この第18話ってどんな話?と聞かれた時、正確に説明できる人は少ないのではないかと思います(私もそうです)。マルロとルチーナの視点からの物語…とは違う。スコットの視点からの物語…それも違うようです。物語の視点は特定のキャラに限定されておらず、あっちに行ったりこっちに行ったりしています。しかし話の内容が散漫かというとそうではありません。のちのククト星篇にみられる「各キャラの出番を無理矢理捻出したエピソード」とは異なり、子供達のふるまいはあくまで自然であり、連続して発生する様々なエピソードは相互に有機的な関係を保っています。これらの構造は脚本の平野氏が得意とされる手法であり、同じ平野氏脚本による第21話の原型であるとも言えます。この第18話と第21話の間にあるエピソードと比較してもその密度の差は一目瞭然であり、どのキャラに注目しても楽しむことのできる「一粒で13度おいしい」話となっています。
■自分も落書きをしたことがあると語るロディ、その話に頷くクレア、バーツ。そして自分も火災報知器のボタンを押した経験がある、と話すスコット。この時点ではエロ本のエピソードがまだ放映されておらず、視聴者からは単なる堅物だと思われているスコットが火災報知器のボタンを押したことがある、というネタは小中学生にとって非常に身近なネタであったと言えます(少なくとも放映当時の私にとっては)。エロ本話のせいであまり語られることはありませんが、スコットの人物像を描いた印象的なエピソードのひとつだと言えます。あまり多すぎると辟易するかもしれませんけど、こういった彼らの「日常の経験談」的な会話のシーンは劇中でもっとたくさん見てみたかったような気がします。
■この前の第17話、そしてこの第18話と平野靖士氏脚本の話が2回連続するのはオリジナルシリーズおよび「13」を通じてこの時だけです。最終的にはアレンジが施されて必然性のある順番になってますが、どうやらこの第18話はシナリオが書かれた時点では第19〜21話を含めた4話の中での放映順は決まっていなかったようです(この当時放映打ち切り話があったのも一因ですね)。結果的にこの回が前の第17話と連続して放映されたことは、平野氏の「作風の幅広さ」を示す形になりました。第17話であれだけ「ロディからの視点」にこだわったのがこの回では一転して各キャラの視点を交互に切り替えながら描くという手法が用いられており、結果的にこの話の前後は「バイファム」劇中でも最も作風の変化に富んだものになっています。
■ケンツが持ち出すニュートロンバズーカは第20話の伏線。「船体に取り付けてビームを放つとその反動で航路に影響が出るので、パペットが船外に持ち出して使う」というSF考証は見事です。
■ドッキングカーゴに点検にきたロディとバーツはケイトの残した遺跡(リフレイドストーン)を発見します。このシーンは前後の繋がりから考えても脚本になかったカットを後から追加したのではないかと思われる展開ですが、第20話以降へのひとつの伏線となります。
■ジミーが落ちてきた食器を口で受け止めるシーンは文字通り「マンガ表現」。この直前の「地震だ」の一言といい、この回のジミーは物語に絶妙な「間」をもたらしています。それにしても、食堂でのカチュアのセリフ「なんていじわるなんでしょうこの調理器、いつまで出すつもり!?」これ、全然聞き取れないんですけど…。
■ムビオラルーム、ニュートロンバズーカの格納庫、7階通路、サブブリッジ、そしてカーゴルームに食堂と、さしずめ「ジェイナス内探検記」といった様相を呈しています。ちなみにマルロとルチーナがムビオラルームで見る映画は20世紀のもので、中にガンダムが混じっているあたりがユニークです。それ以外に確認できる映画は「ヒンデンブルグ」「南極物語」「スターウォーズ」と…あと何だっけ。
■「そうだよ、ペンチだけが悪いんじゃないよ」というフレッドのセリフは、のちの「13」の第3話でも全く同じものが登場します(ちなみにBGMも同じ)。この時も「ミスを犯したペンチを皆(ケンツ)が責め、フレッドがそれをかばう」というシチュエーションでした。「13」序盤ではオリジナルシリーズをモチーフとした展開が散見されますが、この第18話については(第21話と共に)それらに与えた影響は限りなく大きかったと言えます。ちなみに同じ平野氏脚本による「13」第5話はこの回と非常によく似た物語構造を持っており、いろんなキャラに出番があるけれども、最終的にはキャプテンのスコットの視点で締めくくられる…という図式も非常に似通ったものとなっています。
■スコットが最後にクルーに何を言おうとしたかは、「僕は、僕はもう…」の「もう」の部分から容易に推測することができます。それにしても、きっちりとそれを理解した上でラストシーンでのバーツのツッコミにすかさずフォローを入れるカチュアはすごいというか、末恐ろしいものがありますね。彼女の大人顔負けの機転の利かせ方には本当に恐れ入ります。
■この回のラストのディスコシーンは、小中学生に相当する年齢の彼らが「ディスコでストレス解消」するというミスマッチさがユニークです。ちなみにここで流れる曲は何故か主題歌の「Hello,VIFAM」。制作サイドもさすがにこの選曲を後悔したのか、のちの総集篇の同じシーンでは別の曲に変更されていました。余談ながら彼らの踊り方、及び踊っているかどうかは彼ら一人一人の性格が出ていますので、じっくり見てみると面白いです。


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