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第17話
「さよならケイト めざせ新たなる目的地」

1984年02月17日放映


ケイトの宇宙葬を終え、タウト星への軌道変更作業を進める子供達。しかしケイトを失ったロディはひとり冷静さを欠き、ついカチュアを非難してしまう。その時ジェイナスに大型艇の残骸が接近してくる。ロディとバーツ、ケンツが時限爆弾で残骸を破壊するために出撃するが、中に潜んでいたARVガッシュとの戦闘でバイファムは残骸の中から脱出できなくなってしまう。しかしカチュアの身を呈した働きでロディは窮地を脱し、ジェイナスは無事航路をタウト星に向けることに成功した。

この第17話は、まさにロディ一人のための物語だと言っても過言ではないでしょう。前の第16話でケイトを失った彼が「全部この戦争が悪いんだ」というセリフに達するまでの紆余曲折を中心に、彼の、そしてジェイナスの子供達の「新たなる目的地」への出発が描かれています。冒頭でロディのわだかまりと葛藤を描き、そしてカチュアの命懸けの行動とクルー全員が耳にすることになるロディのセリフを経て子供達の和解に繋がっていく展開は、シリーズ前半のクライマックスとも言える内容です。

…前の16話(劇中の時間進行で言うと前日)、唯一の大人であるケイトを失ったことで物語は重いムードで始まります。普段サブタイトルのカットに流れるはずのBGMがこの回に関しては存在せず、その前後にはBGM「鎮魂歌」が流れます。悲しみに暮れるロディの心情が表れた演出だと言えます。ケイトの部屋でひとりたたずむロディ。
部屋にやって来た他の子供達は、失意の彼をよそにケイトの宇宙葬の準備を始めます。彼らがケイトの死という現実を妙にあっけらかんと受け止めているのは多少なりとも違和感がありますが、ここは失意のロディと対比させるための演出であると解釈しておきたいところです。部屋を片付けようとする彼らをその場に残し、落としたケイトの写真を無言で拾い上げて立ち去るロディ。彼は宇宙葬の場には姿を現しません。そして、宇宙葬の最中いたたまれなくなったカチュアはその場を抜け出します。バーツのセリフにもある通り、一番辛いのはカチュア自身なのです。
ケイトの宇宙葬を終え、感傷にひたる間もなくタウト星への航路設定に入る子供達。ロディは皆の先頭に立って作業を進めます。明らかに「張り切りすぎ」の彼を不安げに見守るバーツとスコット。ロディがケイトの形見であるバンダナを目にしてハッとするシーンでは、彼が明らかに無理をしている様子が見て取れます(過剰な演出…つまり喧嘩をしたり怒鳴ったりとかでなく、あくまで日常の行動をベースに彼の精神状態が表現されている点は高く評価したいところです)。バーツとスコットに休むよう咎められ、ブリッジを出て行くロディ。スコットやバーツに突っ掛かるロディの行動は、彼が疲れている証であると同時に、彼の人間臭さが強調された描写であるといえるでしょう。
そんな彼がやって来たのはケイトの部屋でした。彼がケイトの部屋にやって来たのは、そこが彼にとってケイトとの思い出の場所であるからでしょう(この部屋で過去に何があったのかは言うまでもないでしょう)。そこには失意のカチュアがひとりたたずんでいました。彼女が異星人であること、そしてジェイナスを飛び出してケイトを死なせる原因となってしまったことで、ついカチュアを責めてしまうロディ。この時の彼の精神状態が普通ではないことを表したシーンではありますが、これまでの展開からすると「ケンツやシャロンがカチュアを責める→主人公のロディがそれを止めに入る」という展開になってよさそうなものを、その逆をいってしまったことには非常に驚かされました。泣き出したカチュアを見て我に返り、呆然とするロディ。

ちょうどそんな時、ジェイナスの航路上に敵船の残骸が発見されます。爆破するためにRVで出動するバーツとケンツ、後を追うロディ。時限装置をセットして脱出しようとしたその時、残骸の中に隠れていたARVガッシュがバイファムを急襲します。格闘戦の末何とかガッシュを撃破したロディですが、残骸の中に挟まれて身動きが取れなくなってしまいます。カチュアはそんな彼を助けるため、パペットファイターで出撃します。窮地に陥ったケンツのバイファムを助けた後、もう時限装置の爆発までまもないロディを助けに向かうカチュア。
ケイトの死は誰の責任でもない、全部この戦争が悪い、と言うロディ。そのセリフをブリッジで聞く子供達。カチュアがこのセリフをどのように受け取ったのか、劇中では明示されていません。しかしこれまで一切戦闘には参加しなかったカチュアがロディを助けに向かったことは、紛れもなく自分の「仲間」を助けるための行動です。ケイトが死の間際に言い残した「仲間」という言葉。仲間同士で助け合い、この戦争から身を守っていく。その一点についてロディとカチュアの気持ちはまさしく繋がっていたのではないでしょうか。

カチュアの働きにより間一髪ロディは脱出に成功し、爆破された宇宙船の残骸はジェイナスの航路から除かれました。帰艦後カチュアに握手を求めるロディ、それに笑顔で応じるカチュア。そして照れながらもやはり彼女に手を差し出すケンツ。第15話から続いてきた子供達の葛藤はこの事件によって解決し、彼らの団結はこれまで以上に深まりました。ケイトの写真を落としたことに気付かずに格納庫を立ち去ろうとするロディ、それに気付くバーツ。冒頭のシーンと比較しても、ケイトにこだわっていたロディが一歩前に踏み出したことを表した象徴的なシーンだと言えるでしょう。

そしてタウト星への航路変更が完了し、子供達はジェイナスを駆って新たな「旅」へと出発しました。

■第17話と言えばすなわちバイファムとガッシュの戦闘シーン、として記憶しているファンも多いはずです。当時スタジオライブに所属していた西島克彦氏の作画によるRV同士のプロレス技やバーニアを利用した無重力空間ならではの戦闘シーンは、ガンダム世界でのモビルスーツ戦などとは一味違った斬新なアクションシーンでした(個人的には、ガッシュにはじき飛ばされたビームガンが天井にぶつかった時の乾いた金属音が非常にツボでした)。このシーンは第28話での同じガッシュ戦、そして「13」第4話のバイファムvsルザルガ戦と以降のRV戦に大きな影響を及ぼしました。よくよく考えると残骸の中にガッシュが3機も隠れているのは不自然なのですが、演出のテンポのよさがこの辺の不自然さを綺麗に拭い去っています。
■ケイトを失ったことにより、子供達の人間関係は大きく変化します。その中で最も大きく関係が変化したと言えるのはロディとカチュアでしょう。これについては、ロディがカチュアに「君はどうして異星人だったりしたんだ!」と責めるシーンばかりに目が行ってしまいますが、これまでケイトが仲介する形でしか対話していなかったロディとカチュアが直接言葉を交わすようになったこと自体が大きなポイントであると言えます。子供達同士のコミュニケーションの仲介役であったケイトがいなくなることにより、これまでの人間関係のバランスが崩れて一時的に不安定な状態になるのは実に自然なことだと言えるでしょう。ここではその「他者との関係の変化」がロディとカチュアの関係に置き換えて描写されただけであり、「これまでいたメンバーがひとり欠けた」という事実を強烈に印象付けたシーンだったのではないかと思います。
■この回は芦田氏の作監ということもあって作画に異様なインパクトがあり、特にカチュアを責めるロディの表情は当時話題になりました。確かに主人公キャラの表情じゃないですよね、あれは。怖すぎます。
■ロディとカチュアの描写の陰に隠れがちですが、兄を心配するフレッドの表情やブリッジ内でのクレアのきびきびとした指揮ぶり、そしてケンツが異星人であるカチュアを仲間として認めるきっかけとなったエピソードであることにも注目です。この回のケンツは少々目立たない役回りではありますが、終盤のケンツの「変心ぶり」については、第16話との繋がりを考えた場合大きなポイントであると言えます。
■この回のカチュアの心痛には余りあるものがあります。自分が異星人=ククトニアンであるという根本的な悩みの原因が解決していないところに、ケイトを死なせるきっかけを作ってしまったのです。そこでさらにロディに責められたわけで、おそらく通常の神経では持たないでしょう。この第17話はあくまでもロディの視点で描かれていることもあり、泣いて部屋を飛び出していってからパペットファイターで出撃するまでの彼女の心境を描写するシーンはなく、彼女の意志はあくまで行動によってのみ表現されています。自分の置かれた状況を克服した彼女の「強さ」には目を見張るものがありますが、ここでの彼女の心の支えとなったのは、おそらくケイトが最後に言い残した「仲間なのよ」の一言なのでしょう。
■バイファムという物語において、時間との戦いが描かれたのはこの第17話と第36話のたった2回だけ。いずれの回も脚本が平野靖士氏であるというのが面白いところです。
■この回はメカニックの運用についてこれまでと変化が見られます。まずケンツの乗る8番のバイファム。ロディが搭乗するバイファムと別のナンバーを配された主役メカの登場は、バイファムがロディだけに許されたメカではなく、今後もさまざまに運用される可能性がありうることを視聴者に呈示しました。勿論これまでに中尉らの乗機であったことからもバイファムが量産機であることは明らかでしたが、ここでロディ以外のジェイナスのメンバーがバイファムを(大きな失敗もなく)運用したというのは、裏を返せばガンダム式の「特定のパイロットと特定のメカが合わさった時に卓越した性能を発揮して云々」という可能性を早い時点で否定したわけです。バイファムらしい演出のひとつだったといえるでしょう。
■一方、この回の終盤にはカチュアがパペットファイターで援護に出撃します。カチュアはこれまで直接的な戦闘には一切参加したことがなく、ここでの出撃は非常にインパクトがありました。彼女については第3クール以降本格的にRVに搭乗することになるわけですが、それもこの回の出撃があってこそのものだったと言えます。本篇では特にそのような描写はありませんでしたが、カチュアが前回のケイトと同じ装備(パペットファイター)で出撃したことはある意味示唆的です。それが形見であるというわけではありませんが、ケイトの最後の出撃となった機体に代わってカチュアが搭乗するというのはひとつの「変化」を表したものとして象徴的です。
■この回秀逸なのはアバンの出来。スピーディー、かつテンポのよい演出で本篇に大きな興味を抱かせる出来となっています。このあと放映されるアバンは(第21話を除き)あまり工夫されていないものが多いだけに、BGMを含めたこの回のアバンのテンポのよさは目を引きます。
■「俺はもうすぐ15だ。酒くらい飲んだって構わないだろう」というセリフはこの時のロディらしい開き直りが表れた名セリフですが、このセリフの前半部分は最近のテレビ再放送時にカットされて、口パクになってしまっています。放送コード的にいろいろと問題があるのでしょうが、少々残念ではあります。
■この回ひとつだけ「?」なのは、冒頭シャロンが口にした「さすが異星人」という発言。このセリフによって第16話での彼女とケンツとのやりとりが意味を失ってしまったと考えるのは早計でしょうか。彼女については第28話でもタウト星にひとり向かったカチュアに「じゃあ何しに行ったのかな〜」という発言をしてクレアにたしなめられており、少々極端な描き方をされているような気がしないでもありません。別にここでいい子ぶるシャロンを期待しているわけではないのですが、なんとなく気になる描写ではあります。
■この回の終盤の格納庫内のカット(ロディ、バーツ、カチュアとシャロン)は、第3クール以降の番組のエンドタイトルに使用されました。ある意味第3クールの人間関係のバランスを的確に表したカット…と言うとオーバーかもしれませんが、これまでの展開の中でロディとカチュアがこのようにワンカットで収まることはほとんどなかったはずであり、この第17話が文字通り「新たなる目的地」への出発だった証であるとも言えそうです。


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