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第16話
「総員援護体勢!カチュアを連れもどせ!」

1984年02月10日放映


子供達はこのまま地球に向かうか、それともタウト星に向かうのか会議を開いていた。タウト星に進路を変更するべきだとする子供達、悩むケイト。その時自分が異星人であることを知って思い悩むカチュアがひとり小型艇でジェイナスを飛び出してしまう。後を追うケイトとロディ。敵が接近する中、彼らはカチュアを説得してようやく進路をジェイナスに向けさせたが、その直後ケイトのパペットファイターは追跡してきた敵の攻撃の前に被弾し、宇宙の彼方へと消えていった。

ケイトがバイファムの物語の途中で退場する運命にあることは、当時大抵の視聴者が気付いていたはずです。しかし彼女が一体どのような形で子供達の元を去ることになるのかは視聴者はまったく予想できませんでした。それまでの展開の中に特に伏線があったわけでもなく、彼女の運命はスタッフの意志次第だったといっても過言ではないでしょう。
そんな彼女の退場の場は、「カチュアを連れ戻しに出撃した帰りに被弾して死亡」というショッキングなシチュエーションでした。被弾して宇宙の彼方に消えていくケイトのパペットファイター。彼女は無線を通じて子供達にメッセージを送ります。大人の真似をしちゃいけない、あなたたちは「仲間」なのよ、と。それは番組を見ている視聴者に対するメッセージでもありました。彼女が乗るパペットファイターの爆発の瞬間は直接画面上で描かれることはなく、ロディの乗るバイファムのフェイス部分に反射する爆発光、という形で演出されます。「死」というものがはるかに身近なものであるという恐怖を子供達は見せ付けられる形となります(次の第17話の冒頭、普段と変わらないケイトの自室のテーブルの上の描写はあまりにも痛々しいものです)。

…異星人ラレドのメッセージをもとに、タウト星に行くかどうかで意見を出し合う子供達。彼らは話し合いの末「進路を変更してタウト星に向かう」ことを決定し、早速航路の設定変更に取り掛かります。その話し合いの場にカチュアが姿を見せなかったことをきっかけに睨み合いとなるケンツとジミー。こと進路については意見がまとまったものの、カチュアが異星人であることについての各人の気持ちはまだバラバラだったと言えます。
一方、自らがラレドと同じ異星人=ククトニアンであることを知ったカチュア。思い悩んだカチュアは、小型艇でジェイナスを飛び出します。通信機でのクレアの呼びかけに一言「さよなら」とだけ答えたものの、行く当てもなく宇宙空間をさ迷う小型艇。ケイトの「彼女がすぐに飛び出さなかったのは、彼女自身みんなとうまくやっていきたいと望んでいたからよ」というセリフからも分かる通り、彼女は彼女なりにジェイナスに愛着があったのです。
カチュアがジェイナスを飛び出すきっかけとなる事件の発端となったことで、他の子供達から責められるケンツ。正確には他の子供達は目に見える形でケンツを責めたわけではありません。彼らはただカチュアを連れ戻そうと躍起になっていて、ケンツに声をかけるだけの余裕がなかっただけのことなのです。しかしケンツはそんな彼らの態度が自分を責めているかのように錯覚し、ひとり落ち込みます。
そんな彼の悩みに気付いたのはシャロンでした。彼女は円周通路でひとり落ち込んでいるケンツに声をかけます。カチュアを心配していることを否定して立ち去ろうとする彼に対しての「へへっ、無理しちゃって」の一言は、ケンツとシャロン2人それぞれの不器用さを象徴したセリフであり、そしてその後の彼らの仲を暗示したものであるとも言えそうです。

カチュアを連れ戻すためにすぐさま出撃したケイトとロディですが、そこにアストロゲーターが襲来します。緊張が走るブリッジ。そんな中ケンツは、カチュアに「早く戻ってこい!」と叫びます。彼をはじめとする子供達が必死に援護する中、カチュアを守りつつ敵に応戦しながら逃げるロディとバーツ。ケンツをはじめ、ジェイナスの誰もが彼らが全員無事で帰艦することを願っていました。
しかし戦争はそんな彼らの願いをあっさりと打ち砕きます。カチュアこそ帰還に成功したものの、ARVの銃撃の前に被弾するケイトのパペットファイター。ファイターから離脱できないことを悟った彼女は、カチュアに、そしてジェイナスの子供達に皆でうまくやっていくよう言い残します。そしてひととおりのメッセージを残した後、ロディに語り掛けるケイト。彼のバイファムはケイトのパペットファイターに距離的に最も近いところにいたにもかかわらず、結局どうすることもできませんでした。この「最も近くにいながら決して届かない」という図式は、彼が初めてケイトにそれらしい感情を抱いた第6話のラストと呼応するものです。どれだけ近づこうとしてもケイトのもとに辿り着くことはできず、そして遂には永遠に届かない存在になってしまう…。曇っていくバイザー、「寒い…寒い…」という、呟きにも似たセリフ。それが彼女の最後の言葉となりました。バイファムの顔に反射する爆発光、ロディの絶叫…。

遂にすべての大人を失ってしまった一行。ロディの視点を通じて描かれた彼女の「死」は、その後の彼の大きな変革点となっていきます。

■第5話でのクレークに引き続きこの回ではケイトが物語から退場し、ジェイナスに大人は誰一人としていなくなります。クレークとケイトの退場の仕方には直接の関連はないものの、そのシチュエーションにはひとつの大きな共通点があります。それは、彼らが死亡する直前に何らかの「前向きなコメント」を残しているということです。第5話のクレークは「パイロットを連れていくからもう大丈夫」と告げた直後に敵に襲われて消息を絶ち、そしてこの回のケイトはそれまでの落ち込みから立ち直り「子供になんか負けてられないわよ」と言って出撃した後帰らぬ人となります。13人(&視聴者)には非常にショッキングなこの展開は、戦争が彼ら個人の意志や決意とは無関係に進行しているのだ、ということが端的に表されたシーンであると言えます。この両話はともに原作者である星山氏が脚本を書いておられ、これらのエピソードに込められた強いメッセージ性を感じることができます。
■ケンツが「もたもたしてんなよカチュア!早く戻って来い!」と叫んだ時点で、このエピソードには「着地点」ができあがっていました。つまり、子供達が力を合わせてアストロゲーターを撃退し、カチュア、ケイト、ロディは無事帰艦。ケンツは(もじもじしながらも)カチュアに非礼を詫び、立ち直ったケイトを含めた14人はいっそう団結することになる…という、そのようなストーリー展開だったとしても決しておかしくはありません。むしろそのほうが「バイファム」の持つ雰囲気には似合っていたのかもしれません。しかし現実の物語では「ケイトの被弾」によって事態は一変してしまいます。物語のラスト5分、ケイトがメッセージを残して宇宙の彼方に消えていくシーンでは、この展開に賭けたスタッフの「執念」のようなものが感じられます。
■この回の各キャラのセリフには非常にインパクトのあるものが多く、それらを省略してしまうと話の内容が説明しづらくなってしまうほどの重要なニュアンスを多数含んでいます(この解説ではなるべくセリフそのままの文章は使わないようにしているのですが、今回はやむを得ず多数の引用を行っています)。バイファムの物語ではどちらかというと複数キャラによる短い言葉の掛け合いで成立している名セリフが多いのですが、この回はケンツの「(カチュアに対する)早く戻って来い!」やクライマックスのケイトのセリフを中心として、一人のキャラが長セリフを喋るケースが目に付きます。
■冒頭でカチュアがひとりたたずんでいる場所は第14話冒頭でペンチが詩を書いているシーンでも登場した展望室。次の第17話冒頭でのロディのほか、のちの「13」でもホルテやカチュアがこの部屋にやって来るなど、悩みを持ったキャラクターが必ず訪れる部屋として描かれています。地味で目立たない場所ではありますが、ジェイナス艦内の隠れた名スポット?のひとつと言えそうです。
■円周通路でのケンツとシャロンのやりとりでは、ホリゾントが「夕焼け」に変わります。彼らの感情に合わせてシチュエーションを組み立てるという「詩的な」演出です。第15話以来悪者扱いだった2人の心境を描く絶好のシチュエーションを作り出したこの風景は非常に印象に残るものでした。ホリゾントが変化する設定を有効に使ったシーンとしては先の第14話での朝のシーンや「13」第16話冒頭のシーンなども挙げられますが、劇中のエピソードと密接に結びついた形で描かれたのはこの回だけであり、それだけにインパクトがありました。声優さんの名演技も光るシーンです。
■ケイトの最後のセリフ「寒い…寒い…」は非常に生々しく印象に残るセリフです。この「寒い」という言葉は第13話のラストシーンで難破船を見たマキも口にしており(※実際のセリフは「寒そう」ですね)、劇中で一貫して「死」の暗喩として用いられていたことが分かります。
■この回の作画監督はのちにOVA4巻「ケイトの記憶〜」でオープニングの作画を手掛けられる伊東誠氏。どちらかというと誤魔化しのないかっちりしたラインでキャラクターを描かれる傾向にある方ですが、この回のカチュアのおでこの広さといったら…うーん。ちょっと目立ちますね。
■この回のメカ描写については、ウグの懐をかいくぐるパペットファイターなど「おおっ」と思わせるカットも多くありますが、たまにヌケたカットも存在しています。その代表的な例は、設定資料そのまんまの立ちポーズでバーニアをふかして飛来するウグ。しかもその立ちポーズのまま「ハエが止まりそうな」超スローな動きでバイファムと交戦する始末で、本放映当時テレビの前で爆笑してしまいました(シリアスなシーンなのに)。いや、間違っちゃいないんですけど、それまでの回はそれらしい動きをしていたわけで、もうちょい何とかならなかったんでしょうかね。
■ケイトの死は、その後のロディらの成長に大きく寄与する形となります。言い換えればケイトの死なくしてその後の彼らはありえませんでした(決して死を美化するわけではありませんが、おそらく事実でしょう)。そういった意味では、ケイトが実は生きていた…というのちのOVA「ケイトの記憶 涙の奪回作戦!」は少々蛇足であったと言わざるを得ません。勿論このOVAがバイファムの世界観を広げるのに一役買ったことは事実ですが、この第16〜17話のエピソードが子供達の成長に与えた影響を考えた場合、ケイトはあくまでも「死んでいなければならなかった」キャラクターに違いありません。脚本の星山氏はこの第16話のクライマックスの持つ意味を犠牲にしてまで「ケイトの記憶〜」を書きたかったのでしょうか?答えはおそらく「否」でしょう。バイファムという物語、そしてケイトというキャラクターに人気があったが故の悲劇。私にはそう思えてなりません。


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