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第15話
「衝撃!!異星人が残した意外なメッセージ」

1984年02月03日放映


異星人ラレドはケイトに重大なメッセージを残していた。酒びたりになっているケイトの部屋にやって来たクレアは偶然メッセージの入ったテープを聞いてしまい、それはシャロンの口を経てまたたく間に艦内に広まってしまう。ケイトは意を決して子供達にテープを聞かせる。カチュアがククトニアンであること、そして子供達の両親がククトの衛星タウトに捕われていること…ジェイナスの目的地を変えるべきか迷うスコット達。そして自分が異星人であることを知ったカチュアはケイトの胸で泣きじゃくるのだった。

ククトニアンであるラレドの死。それは子供達にとってショッキングなものでした。しかし彼はジェイナスを離れる前、さらに衝撃的なメッセージをケイトに残していました。この第15話はそのラレドのメッセージが、紆余曲折を経て子供達に伝わるまでの様子が描かれます。それはまるで「悪い病気がクルーに徐々に伝染していく」かのような描き方をされており、バイファム全篇を通して見た時に屈指の「暗さ」を持つエピソードとなっています。

ラレドとの会談以来食事の席に姿を見せなくなったケイト。彼女を呼びに部屋に行ったクレアは、偶然にも異星人ラレドが残したメッセージテープを聞いてしまいます。それはカチュアが異星人であるというショッキングな内容でした。クレアはマキにこっそりとその事実を打ち明けますが、偶然シャロンがそれを耳にしたことにより、その噂はあっという間にブリッジの子供達の間に広まってしまいます。そこへ姿を現すカチュア。事実を知った子供達がカチュアを今までと違った目で見る描写は異常なまでに執拗であり、翌朝の食堂のシーンでの息を飲むような静けさと緊張感は「バイファム」全篇を通して見た時でも非常に特異なシーンです。彼らの沈黙とよそよそしい描写は「あの明るい子供達が押し黙ってしまうほど重要な問題に直面していた」ということの証明に他ならないと言えます。ついにその雰囲気に耐えられなくなり「口撃」を始めるケンツ、その彼に飛びかかり取っ組み合いを始めるジミー。彼らにとって「カチュアが異星人である」という事実はそこまでショッキングな出来事でした。

一方ラレドのメッセージをひとりで抱え込んだケイトは自室で酒の酔いに身を任せる状態になっていました。何とかそれを止めさせようとするロディ。「お酒をやめてください」という彼の口調がこれまでになく強いものであるのは、クレークの死以降自分の力でケイトを救うことができなかったという行き場がない憤り、悔しさが表れたものだと言えます。彼女の手からグラスを奪い取ろうとする彼の行動は、彼のそんな気持ちから出たものだと言えるでしょう。

カチュアが異星人であるという事実が公になり、事態はもはや子供たちの力では収拾不可能となります。クレアから報告を受けたケイトは意を決し、ラレドとの会話を録音したメッセージテープを子供達に聞かせます。そこには驚くべき事実が語られていました。カチュアが異星人=ククトニアンに間違いないこと。そして、地球に向かったと思っていた子供達の両親は実はククト軍によって捕えられ、「悪魔の星」と呼ばれるタウト星に収容されていること。それらの内容は子供達にとって、そして自らの出生の秘密を知らなかったカチュアにとって非常に衝撃的なものでした。ケイトの胸で泣き崩れるカチュア。そして地球に行っても両親に会えないことを知った子供達もまた大きな悩みを抱えることになります。地球に向かうべきか、タウト星に向かうべきか。「銀河漂流」を始めて間もないこの時期、子供達は大きな岐路に立たされることになります。

■この回の図式をこの上なく大雑把に言ってしまうと「ケンツとシャロンが先頭に立って異星人であるカチュアをいじめる」というものです。もっともスタッフに彼ら2人を悪者にする意図があったわけではなく、この次の第16話で彼ら2人の行動はきちんと(彼ら自身によって)フォローされるのですが、この第15話のシャロンやケンツの行動だけを見て彼らに嫌悪感を抱いた視聴者も多いはずです。この回のラストシーンで何らかのフォローを入れておく方法もあったと思うのですが、それをしなかったのはあくまで(事実上の)前後篇である次の第16話とのバランスを考えてのことであると言えます。
■この回の冒頭のシーンでは、子供達がジェイナスやRVを役割分担に従ってきちんとチェックし、航路を確認する様子がひととおり描かれています。このシーンではその後渦中の人物となるカチュアも彼らメンバーに混じって自らに与えられた役割を果たしているほか、終盤取っ組み合いを演じることになるジミーとケンツも二人揃って砲座の点検をしています。このシーンが存在していることにより、カチュアが異星人であるという事実が彼らの人間関係にどれだけの影響を及ぼしたのかがはっきりと見て取れる形になっています。彼らの関係がうまくいっていたことが表現されたこれらの冒頭のシーンは、その後の展開を知ってしまうとある意味残酷なシーンです。
■この回では子供達の年齢の違いによる「差」が比較的厳密に描かれています。「年長組」に分類されるスコット、ロディ、バーツ、クレア、マキについてはカチュア絡みの問題については軽率な行動を取っていません。しかしその下の年齢層、つまりケンツやシャロンといった「中堅組」の発言にはこのあたりへの配慮に欠けている節があります。そして、年少組を中心としたそれ以外のキャラはどうしていいかさえ分からずにただ黙っているだけです。バイファムの物語がスタートして以来、子供達がこのような困惑の表情を見せるのは初めてのことです。本当のことだからこそ口にしてはいけないことがある…と発言するマキと、それを黙って聞くだけの子供達。バイファムの物語の中でこのようにものの考え方、見方に言及されるのは非常に珍しいことであり、この第15話の本質はまさにこの部分にあると言えます。この回のライターである伊東恒久氏のカラーが色濃く出たシーンであると言えそうです。
■この回注目したいキャラクターはクレアです。冒頭でカチュアが異星人である事を偶然耳にしてしまった彼女はマキにそのことを打ち明け、それが噂が広まる原因となります。しかし彼女はその後もカチュアに精一杯気を遣い、あらゆる場面で必死になって機転を利かせカチュアを守ろうとします。ケイトを含めたクルー各々の関係を繋ぎ止めようと立ち回る姿には彼女らしさがよく表れていますが、どれだけ頑張っても事態を好転させるに至らないこの回の彼女の姿はある種痛々しくもあります。カチュアの描写の陰に隠れてそれほど目立つわけではありませんが、少なくとも彼女の存在なくしてこの回を語ることができないのは事実です。
■この回扱いが難しかったと思われるキャラクターは、日常からカチュアと行動を共にしているジミー。彼がもしブリッジでのシャロンの暴露発言の場に居合わせていたのなら、その後の食堂でのケンツとのやりとりは大きく様変わりしていたことでしょう。実際には彼はケンツの口から出た言葉によってカチュアがククトニアンであることを知り、そして取っ組み合いを演じることになるわけですが、一方でその前後の彼の様子には明らかに「カチュアが普通ではないことに事前に感づいていた」節が見られます。実際彼は第12話でケイトとカチュアの面談シーンを目撃したりもしていますし、彼は彼なりにカチュアが普通でないことに気付いていたのかもしれません。
■「ククトニアンにもあなたがたとの戦争に反対する者がいる」というラレドのセリフは、第28話でジェダがロディに語ったセリフとほぼ同一のものです。ラレドとジェダが同じグループに所属していたことは第40話になって初めて明らかになるわけですが、このセリフが第28話で再び登場した時点で、ラレドとジェダがほぼ同じ思想のもとに行動していたことが読み取れます。
■ロディはケイトがかつてクレークに好意を寄せていたことを知っています。そのクレークは今はいません。ロディはケイトと対等な立場でいたいと思っていた(あるいはすでに対等だと思っていた)にもかかわらず、ロディは結局ケイトの心の中に入り込むことができませんでした(ロディは第6話のラストシーンでこのことを痛感させられています)。この回のロディの行動は、そんな自分に対する腹立たしさ、悔しさがベースになっているものと見なすことができます。比較対象としては少々違っているかもしれませんが、ペンチが前の第14話でラレドとカチュアの間に決して割り込めなかったのと似ている部分もあります。
■この回のロディとケイトのキスシーンは物語の流れに大きな影響を及ぼしているわけではなく、視聴者にインパクトを与えるための演出のひとつであったと見るのが妥当なところです。事実この回が本放映の直後、アニメ誌上などで「ロディとケイトがキスをしちゃった回」という扱いになってしまったことは当時のファンの多くが知るところです。番組の主人公である14歳の少年と26歳の大人の女性のキスにはそれだけのインパクトがあったということですね。なお、このキスシーンのカットは次の第16話でわざわざ描き足されていますので、見比べてみるのも一興。
■この回では、第5話のクレークとベロアの会話でおぼろげながら見えかけていた「実は地球側が侵略者である」という衝撃的な設定が初めて明示されています。この回ではカチュアが異星人であること、そして両親がタウト星に捕まっているという事実も併せて明らかになったことで、13人がこの「地球側=侵略者」という事実をどう受け取ったのかは劇中ではほとんど描写されていません。しかしこのことは視聴者にとってはこの上なくショッキングな事実であったといえます。いわゆる「勧善懲悪」の構造が逆転しているだけにとどまらず、このことを地球側がまったく自覚していない点がショッキングなのです。これは最終回である第46話の地球軍兵士のセリフにも直結する、バイファムという物語のもうひとつの主題であるとも言えます。


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