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第10話
「ジェイナスが凍る!幼い命を救え!」

1998年06月07日放映


ルルド艦から攻撃を受けて落ち込むホルテ。そんな中ジェイナスの機関部に不具合が発生。エアコンの故障によって艦内の温度が下がり、双子が風邪を引いてしまう。ルービンが船外へ出て機関部の修理をすることになるが、その時ククト軍の別部隊が接近。双子の容体を見かねたホルテは自ら素肌で双子を抱きしめて介抱に努める。激しい戦闘の中ルービンの活躍で機関部の修理は終わり、ジェイナスは間一髪戦線を離脱。エアコンは無事復旧し、双子も健康な状態に戻った。

「13」第1クールの「双子の赤ちゃん&ラピス篇」で最もファンの評価が分かれるのがこの第10話でしょう。物語は13人ではなくホルテとルービンの2人を中心に描かれ、彼らが子供達に受け入れられようと奮戦する様子が描かれています。「13」という作品において、彼女達2人が実はオリジナルシリーズ放映当時のファンの現在の姿を投影した存在である…という前提に立って見れば十分納得のいく話ではあるのですが、バイファムの物語があくまで子供達を中心に展開するべきだという考え方に基づけば、この第10話は「バイファムじゃない」ということになってしまいます。私個人としては前者の考え方なのですが、「13」という作品の難しさが表れた1篇であることは間違いなさそうです。何よりもホルテとルービンはこのあと僅か4話あまりで物語から退場してしまうわけで、そういう意味ではペース配分を誤ったのではないか、という気がしてなりません。オリジナルシリーズのベルウィック星篇と同じくらいキャラ描写に時間をかけておきながら、そのキャラを十分に生かせないまま終わってしまう…という展開は、視聴者にとっても、そしておそらくスタッフの方々にとっても、少々欲求不満の残るものだったことは間違いありません。

…前回の第9話のラスト、ルルド艦からの攻撃が突然停止した直後から物語はスタートします。ルルド艦から攻撃を受けたことでうちひしがれるホルテ、そして彼女を気遣うクレア。ホルテは展望室にやってきたクレアに対し、しばらく自分一人にしてほしいと告げます。前話ではクレア達の訪問を積極的に受け入れていた彼女なだけに、今回受けたショックの大きさがうかがえます。
そして前回ミサイルが直撃したことにより、ジェイナスの機関部に不具合が発生します(この時の不具合は、のちの第15話からの「ボギー不調篇」に直接リンクしてきます)。エアコンが故障したことで急激に温度が下がりはじめるジェイナス艦内。この非常事態においても、元軍属らしい手際のよさが目立つルービンがその行動力を最大限に発揮します。率先して機関部の修理にとりかかるルービン、それを手伝うバーツとロディ。バーツは前回とはうって変わってルービンと息の合ったところを見せます。一方、ケンツは第9話での事件以来すっかりルービンに好意をもってしまっています。傍目もふらず作業をする彼女の姿をぼんやりと見つめるケンツ、その彼をひやかすシャロン。この一連のシーン、徐々に彼女らに対する子供たちの心境が変化し始めたことが伝わってきます。
一方、展望室でひとり思い悩むホルテのところに、ヤギを連れたジミーがホットミルクを持ってきます。ヤギを連れている理由をホルテに尋ねられたジミーは「誰かが(ヤギを)世話しなきゃいけないでしょ」と答えます。それを聞きハッとするホルテ。今の自分に何ができるか、何をすべきなのか。ジミーの何気ない言葉に勇気づけられた彼女は再び立ち上がり、ブリッジに向かいます。
子供たちを手伝うためにブリッジにやって来るホルテ。そこへクレアが駆け込んできます。船内の温度が低下してきたことで双子が風邪を引き、高熱を出したのです。エアコンの修理のためには一旦電源を落とすことが必要。ルービンがウェアパペットを着用して船外へ出て修理をすることになりますが、その時折しも前方から敵艦(XU23a)が接近してきます。迎撃に出るロディ達。激しい戦いの中、ウェアパペットで船外に出たルービンは破損個所の修理を進めます。
そして船内では停電によって赤ちゃんの風邪が悪化していきます。ホルテは意を決し、着ていた服を脱ぎ始めます。双子を抱きしめ、自らの肌で暖めようとする彼女。今の自分に何ができるか、何をすべきなのか。彼女が出した答えがこの行動でした。一方ルービンの活躍でジェイナスの機関部の修理は終わり、ジェイナスは最大加速で戦線を離脱、XU23aの主砲の砲撃を間一髪逃れることができました。エアコンが復旧したことで艦内は正常に戻り、双子も健康な状態に戻りました。

…そして、依然後方からジェイナスを追尾するルルド。彼が攻撃を停止した本当の理由は子供たちは勿論、副官のバリルでさえ知りません。電送された双子の写真を見て苦悩するルルド。一方献身的なホルテ達の前に、今後の行動についてどうすればいいか悩むスコット。両者がその問題に答えを出した時、物語はいよいよ「双子の赤ちゃん&ラピス篇」のクライマックスへと突入していきます。

■「宇宙空間は絶対零度=寒い」という基本的な物理法則がこの第10話の根幹となっています。これまで当たり前のように使っていた艦内のエアコンが故障したことで窮地に陥るジェイナス。外からの攻撃などといった非常事態よりもよっぽどバイファム世界らしい「リアルな」非常事態の勃発です。この、SF設定と日常生活が交錯するところで事態解決のために奔走する子供達の描写がこの第10話のポイントであると言えそうです。また、エアコンの故障でシステムエラーを表示し初期化を要求するボギーの画面なども、オリジナルシリーズのボギーの設定をきちんと継承した中での最大限目新しい表現として秀逸でした。
■ルービンの電送した写真によって実際にルルド艦からの攻撃が停止したことが影響してか、彼女たちに対する子供たちの態度が第9話に比べてかなり軟化しています。あれほど警戒していたルービンを「さん」付けで呼ぶバーツ、そして彼女の前ですっかりおとなしくなってしまったケンツ。ジェイナス電源部の修理シーンでは、ケンツの視線がルービンの足腰から胸元、顔までを丁寧に追っていくカットがありました。ケンツがルービンを以前のように敵としてではなく、明らかに「異性」(あるいは「あこがれの人」というところでしょうか)として見ている表れです。第9話と比較してのこの回のケンツの内面の変化は非常に丹念に描かれており、違うライターの方が書かれた脚本であるにも関わらず(第9話外池氏、第10話平野氏)よくここまで自然な流れの中で表現できたものだと感心させられます。
■ただ、その中で「ルービンさんを絶対守り抜くぜェ!」と叫んで敵を迎撃するケンツの姿には個人的に大いに違和感を感じました。ケンツというキャラクターはこういった感情をストレートに言葉に表すことができず、行動にのみ出してしまう印象があるのですが。特にこのシーンをのちの「双子の赤ちゃん&ラピス篇」の最終回となる第14話での別れのシーンと比較すると、少々演出に一貫性がない気がするのですが、いかがでしょうか。
■この第10話の名シーン、ホルテとジミーの会話の舞台となった展望室は、オリジナルシリーズ第14話でペンチが詩を読んでいた場所です。逆光の中ホットミルクから長く立ち上る湯気に加え、ジミーのふとした言葉にホルテがハッとするシーンには明らかにオリジナルシリーズBGMを意識したリコーダーの音楽が挿入されており、非常に印象的なシーンでした。そのBGMがジェイナス艦内の停電とともに止まるというのも演出上心憎いポイントです。
■本篇のエピソードとは直接絡みはしませんでしたが、この回はマルロ&ルチーナが生き生きと描かれていたのが印象的です。ミルクをおいしそうに飲むシーン、そして「誰かが噂をしているからくしゃみが出る」と教えられてわざとくしゃみをして「ママが噂した〜!」と笑顔をみせるところなど、彼らの屈託の無さがうまく表現されたシーンです。
■この回でクルーが着用していた防寒具はオリジナルシリーズ第18話、マルロとルチーナが冷凍庫に食材を取りに行った時のものと同じデザインです。この「13」第1クールではこういう部分のこだわりは非常に芸が細かく、見事にオリジナルシリーズとの連続性を保っています。また新設定の中では、赤ちゃんの額に貼り付けられた体温計はちょっとした小物でありながらなかなかいい味を出していました。一方ホルテの服については「そうか、ああいう重ね着の仕方だったのね」と変に納得した方が多かったかもしれません。ただのスカートかと思ったら、違ったんですね。
■相変わらず目立たない「主人公」ロディですが、今回は前出の防寒具を着用していたこともあり、弟のフレッドと見分けがつかないくらい特徴がなくなっていました。このあとクライマックスに向けてカチュアとシャロンがエピソードの中心になることもあり、何か彼らしい描写をするとすればこの第10話あたりがギリギリの線だったのですが、結局何もエピソードは用意されていませんでした。ファンにとっては残念な限りです。
■オリジナルシリーズのククト側メインメカであったARVウグと輸送艇(XU23a)が「13」初登場。ウグの銃から放たれるビームの形状がオリジナルシリーズの通称「四角ビーム」でなかったのは少し気になりましたが、バイファムとの戦闘シーンにおいて非常にいいアクションを披露していました(ただ、一番いい動きをしたシーンがよりによってホルテの脱衣シーンの直後だったため印象が薄れたかもしれません)。オリジナルシリーズより少し丸っこい印象のXU23aも、主砲を放つシーンではいかにも「力をふりしぼった一撃」という表現で目立っていました。さらに今回はトゥインクルヘッドやオールオーバーも登場し、オリジナルシリーズファンにとってはメカのにぎやかさが心地よい回でした。
■ラストシーン、ヤギに顔を舐められているスコットの一言「僕はどうすればいいんだ!?」に対し、あえて私から一言。「何もしなくていいから、とりあえずもうちょい落ち着け!」

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