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第5話
「総員奮戦せよ!恐怖の子育て戦争!」

1998年05月02日放映


ジェイナスに収容された双子の赤ちゃんはククトニアンだった。扱い方が分からずオロオロするメンバーをよそに、一人手慣れた手つきを見せるシャロン。遠距離から繰り返される敵ビームの砲撃をよそに、艦内を舞台とした13人の子育て戦争が続く。そしてククト軍のルルドの艦隊が、いよいよジェイナス追撃のために艦の速度を上げる…。

平野靖士氏の「13」初脚本となるこの第5話は、前回ジェイナスにやって来た双子の赤ちゃんを中心に13人の奮闘ぶりを描いた一篇です。特定のキャラクターが軸にならずに13人それぞれのキャラクターが生き生きと描かれ、そして最終的にはキャプテンであるスコットの視点で収斂していく…という構造は、同じ平野氏脚本のオリジナルシリーズ第18話や、「エロ本話」として名高い?オリジナルシリーズ第21話に近い雰囲気を持っています。

敵ステーションから拾ってきた双子の赤ちゃんの乗船によって、育児経験のないジェイナスの子供達はパニックに陥ります。泣いてばかりの赤ちゃんを見て病気ではないかと疑い、メディカルルームに運んでしまう子供達。そんな中、育児経験のあるシャロンは赤ちゃんが泣く原因が空腹によるものだと見抜いてミルクを作らせます。一方で彼女に負けじと育児マニュアルを探してきて対抗するペンチ、何かとこき使われるケンツら男性陣、そして赤ちゃんがククトニアンだと分かって頭を抱えるスコット。その彼は赤ちゃんにおしっこをかけられたことで替えのズボンを失い、バスタオルを腰に巻いた姿で艦内を右往左往します。ロディとバーツはそんな彼の姿に大笑いし、潔癖なクレアは顔を赤らめる…と、この回は双子の赤ちゃんを中心とした13人のキャラクターが生き生きと描き出されています。
この回これらのエピソードの中心となるキャラクターはキャプテンであるスコット、そしてシャロンです。特にシャロンについては、踊り子だった両親のもとで赤ん坊の世話をした経験があり、子供達の中で唯一赤ちゃんに対して適切な対応を取ります。「双子の赤ちゃん&ラピス篇」についてはもともと双子の赤ちゃんとシャロンの絡みがメインであり、その始まりであるこの第5話からそのことがしっかりと表れた形となります。
赤ちゃんに悪戦苦闘を続ける子供達ですが、終盤はある程度の「慣れ」が見られるようになります。最初赤ちゃんに手を触れようともしなかったスコットがラストシーンでは赤ちゃんを抱けるようになっていたり、最初はシャロンに対して意地になっていたペンチがラストシーンでシャロンの気遣いを受け入れたりと、劇中で子供達に明らかな変化が見られたのは非常に印象的でした。

…さて、双子の赤ちゃんを巡るジェイナス艦内の騒動をよそに、ジェイナスを狙った遠方からのビーム攻撃が続きます。ラストシーンにおいて、このビームはククト軍のルルド艦隊がリフレイドストーンの所在を確かめるために発射していたことが明らかになります。話の前後の関係から察するに、オリジナルシリーズ第21話での「敵ビーム波状攻撃」はこのルルドの艦隊から放たれたものであったという解釈が正しいでしょう。ジェイナスに目標=リフレイドストーンが搭載されていることを確信したルルドが艦の追撃速度を上げ、そしてジェイナスの子供達は四苦八苦しながらも赤ちゃんの世話を続ける…これらが交互に描かれたラストシーンは、赤ちゃんを巡るこれからの急展開を予想させる意味ありげなラストシーンでした。

■この第5話は「13」になって初めて戦闘シーンがない回となりました。戦闘シーンを描くことが義務付けられていたオリジナルシリーズ後半とは異なり、キャラクター中心の自由なエピソード作りができることはこの「13」の特色であるとも言えます(続く旧タウト星篇では逆にそれが足かせとなってしまうのですが、それについては後述します)。この第5話に関しては前述の通りオリジナルシリーズの第18、21話と非常に近い雰囲気をもっており、「13」がどちらかというとオリジナルシリーズ前半の雰囲気をもっていることを証明しています。
■オリジナルシリーズの名小道具「エロ本」がチョイ役ながら登場したりするのもバイファムならでは(あるいは平野氏ならでは?)といったところでしょうか。ただ、スコットとの「遭遇」を軸にエロ本がきっちりとストーリーに組み込まれていたオリジナルシリーズの第21、39話と異なり、この回は単なるファンサービス的な登場にとどまりました。作画監督の方のクセもあるとはいえ、エロ本の絵柄がオリジナルシリーズよりアニメチックなものになっているのはご愛嬌。
■前回赤ちゃんがステーションで発見されるきっかけとなったマルロが早くもお兄さんぶりを発揮します。13人の中では最年少でありオリジナルシリーズではあまり目立たなかったマルロが、自分より年少者である赤ちゃんの登場によってこれほど立ったキャラクターになるとは驚きです。終盤彼がルチーナとともにスコットに静かにするよう促すシーンは、バイファムという作品の中で彼が初めて年長者であるスコットに対して自主性(というのかな?)を見せたシーンとして注目です。
■「13」開始時から挙げられていたオリジナルシリーズとのいくつかの相違点は、この回のための伏線でした。スコットのズボンがオリジナルシリーズと違うデザインだったのは赤ちゃんにおしっこをひっかけられて洗濯せざるを得なくなるための伏線であり、クレアの胸が大きめに描かれていたのはケンツに「ミルクなんてオッパイから飲ませりゃいいだろ」と突っ込ませるための伏線でした。クレアの胸をまじまじと見つめるケンツに対してバーツとロディがドツキを入れるシーンはオリジナルシリーズには有り得ないコミカルな演出で、なかなかユニークです。
■スコットが腰に巻いていたバスタオルをクレアが頭から被ってしまい、悲鳴を上げるシーンがあります。彼女の「潔癖さ」がよく表れたユニークなシーンです…が、個人的にはそれほど騒がなくてもいいと思うんですけどねぇ。素肌の上にモロにまとっていたのならともかく。ま、14歳の女の子であればあんなもんでしょうか。(余談)
■赤ちゃんをお風呂に入れる時にお湯をぬるめにする、ミルクは一旦沸騰させたものを50度に冷ましたお湯を使って作る、さらに赤ちゃんが寝返りでころころ転がる場合がある、といった細かいディティールを生かしてエピソードを組み立ててしまう演出は秀逸でした。この辺は脚本の平野氏の得意分野といったところでしょうか。また、わざわざ設定画が起こされた「ゴム手袋を利用した哺乳瓶」はシャロンの器用さ、アイデアマンぶりを表す小道具として秀逸です。このあとも画面には何度か登場することになりますが、「双子の赤ちゃん&ラピス篇」の最終回となる第14話、ジェイナスを退去する直前のルービンが手に持って眺めていたシーンはその中でも特に印象的でした。
■この回のベストカットは終盤、スコットを制して赤ちゃんのほうを振り返るマルロとルチーナのカットです。双子の赤ちゃんの乗船によって一気に「お兄さん、お姉さん」らしくなった彼らの変化がよく表れた屈指のカットだと言えるでしょう。なお、このシーン〜スコットが寝ている赤ちゃんを眺めるシーンで用いられたBGMは非常に美しく印象に残る曲です。この曲は音楽集1で「双子の赤ちゃん!神様からの贈り物?」というタイトルで収録されている曲のオルゴールバージョンで、結局単独の音源としてサントラに収録されることはありませんでした。この第5話を、そしてこの「双子の赤ちゃん&ラピス篇」を代表する印象的な曲だけに、ちょっと残念ではあります。

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