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第40話
「ミューラアの秘密」

1984年7月28日放映


反政府軍のジェダのアジトに案内された子供達。スコット達は地球軍とコンタクトを取ろうとする彼らに同行して通信基地へ向かう。一方、捕虜となっているミューラアに単身会いに行ったロディは彼が地球人とククトニアンの混血であることを知る。スコット達の交信を傍受したククト軍が攻撃を加えてきたが、子供達はリベラリスト達と力を合わせてこれを撃退することに成功した。

この回は位置付けとしては次の第41話以降への橋渡しということになるでしょうか。ジェダに危ないところを救われた子供達は彼らリベラリストの基地に案内されます。あてのない旅から開放されてホッと一息つく子供達。ケンツらはリベラリスト達のARVを見たり、翻訳機でゲリラの一人に話し掛けたりと久々に羽を伸ばします。

…というわけで、子供達13人だけの旅が前の第39話で終わりを告げ、この回からはジェダ達リベラリストに保護された形での13人の行動が始まります。13人オンリーのハラハラドキドキのこれまでの行動を見守ってきた視聴者にとっては「これからは彼ららしい明るさ・自由奔放さが失われるのではないか?」という心配があったわけですが、冒頭でリベラリストの戦闘メカ(ARVギャドル)を見学したり、翻訳機を使ってゲリラの一人との対話を試みるなど、彼ら子供達はどんな状況においてもやっぱり彼らなのだと実感させてくれます(ちなみにここで登場したゲリラは、設定資料に「主役並みの美形」と書かれた彼その人)。またこの回の中盤に挿入されるルチーナ&マルロの散髪シーンなどは、リベラリストの基地に保護されているという後ろ盾を得ることによってこれまで描けなかった13人の日常が逆に描きやすくなったひとつの例だと言えそうです。

緊張から解き放たれた子供達(フレッド・シャロン・ケンツら中堅組以下)がリベラリストの基地の中で自由を謳歌する一方、年長組はいくつかのグループに分かれてそれぞれの目的に添った行動を始めます。地球軍との通信役を買って出たスコット達は中堅〜年少組を連れ、地球軍に向けてメッセージを送るために通信基地に向かいます(敢えて通信基地をアジトから離れた場所に設定したのはその後の展開上の都合によるものでしょう)。一方でひとりリベラリスト基地に残ったロディは捕虜となったミューラアに会いに行き、サライダとミューラアの会話によって偶然にも彼が地球人とククトニアンの混血であることを知り愕然とします。
しかしこの回のポイントは、ミューラアが混血であったという事実よりも、どちらかというとククトニアン軍人としての彼の考え方が呈示されたことにあるように思います。ミューラアがここで地球人を「侵略者」と呼んだことは次の第41話、および第44話と密接に関わってきます。視聴者はロディとミューラアの会話によってミューラアの考え方に触れ、そしてその後サライダによって語られるミューラアの生い立ちと、サライダのセリフ「この戦争の最大の犠牲者とは、彼や君達のような者を言うのかもしれんな」によって、視聴者はミューラアが子供達とは違う次元で悩み、苦しんでいることを知ります。この一連のやりとりによって次の第41話における「俺はククトニアンだ。誇りを持ったククトニアンの軍人だ!」のセリフに重みが出たことは言うまでもありません。そしてこのやりとりは、あの最終回の地球軍兵士のセリフ「(ククトニアンが)先に手を出しておいて、いまさら和平はないよなあ」に繋がってくるのです。

さて、スコット達が向かった通信基地が敵(政府軍)に攻撃されたとの報を受け、ロディはバイファムで救援に向かいます。「敵に襲われた仲間達を助けに行く」という展開は第10話のそれと非常によく似ていますが、第10話がスコットのリーダーとしての自立を描いていたのに引きかえ、この第40話の戦闘シーンには何のメッセージ性も感じられません。良くも悪くも第3クールによく見られる「なげやり戦闘シーン」であったことは否定できないでしょう。必死に敵と戦うスコットやクレア、マキら子供達を描いたシーンについては(彼らのキャラクター的に間違った行動こそ取っていないものの)正直言ってなかったことにしたいものです。
何とか敵を撃退し、子供達は無事再会を果たしました(このシーンの雰囲気はベルウィック星での彼らに似たものがあります)。そこでRVから降りてきたカチュアと顔を合わせるロディ。そのカチュアはこの回の冒頭でゲリラのメンバーに自分の両親についての手がかりを尋ねていたわけですが、彼女の両親がコロニーにいるらしいという情報はこの回初めて彼女の耳に入ったものであり、次の第41話でのミューラアの「(カチュアの両親が)生きているとすればコロニーにいるはずだ」という同内容のセリフと合わせ、彼女のその後の行動に大きく関わってきます。このシーンこそ、それまでの「子供たちだけによるあてのない両親探しの旅」とこれ以降の「カチュアの意思決定/リベラリストと地球軍の和平交渉」というストーリーの転換となった場面のように思えます。

そしてここで顔を合わせたロディとカチュアは、続く第41話で大きな転機を迎えることになります。

■この回の冒頭、ロディ達はラレドがかつてジェダの仲間であったことを知ります。これまでに登場したククトニアンの中でたったひとり正体が明かされていなかったラレドについてここできちんと言及したことは(いかに後づけの設定とは言え)物語を引き締めるのに非常に効果的だったといえます。この回のラレドといい第44話で名前が出るケイトといい、第1クールの登場人物についてこの終盤になって劇中で言及されるようになったのは制作側が物語全体を見通してまとめに入った証明であると言えそうです。
■冒頭、翻訳機を手にしたシャロンの爆弾発言「彼氏のションベンなぜ白い」。いったいククト語ではどういう風に訳されるのか?という興味はさておき、放映時間帯変更前では絶対に不可能だったであろうセリフです(もっとも、夕方でも十分すぎるほど爆弾発言であることは間違いないのですが)。ケンツはこのセリフを聞いて焦った表情を浮かべますが、このリアクション自体はさすがに深い意味はなく、単にセリフを浮いたものにしないための演出であるという解釈が正しいところでしょう。
■通信基地でマイクを手にして地球軍に呼びかけるスコットの行動は最終回への伏線として注目に値します。彼ら13人が和平のシンボルとなるという展開がはじめて劇中で示唆されたシーンでした。
■ミューラアの拷問シーンはそれ自体に意味があるものではありません。この拷問シーンは、それを止めに入ったロディに対し「(ミューラアがどうなるか)地球人のキミには関係のないことだ」というゲリラのセリフを引き出すためにのみ用意されたのでしょう。これはその直前のロディに対するミューラアのセリフと合わせ、地球人とククトニアンの間に深い溝があることが明示されています。
■ミューラアが地球人とククトニアンの混血であることは実は第34話で既に視聴者に明らかになっており、この回のサライダ博士とミューラアのやりとりで驚いたのはロディだけだったということになります。このことは決して計算づくで行われた演出ではなく、おそらく制作上の打ち合わせミスによるものではないかと私は考えています。ミューラアが地球人とククトニアンの混血であることを視聴者が知っていなくてはならない必要性は第35〜39話のどこにもありませんし、おそらく制作側は第34話でのミューラアと上官のやりとりを失念したままこの第40話に望んでしまったのではないでしょうか。でなければサブタイトルに「ミューラアの秘密」とデカデカと掲げたりはしないはずです(…と思うのですが、いかがでしょうか?)。


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