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第20話
「決死のランディング!救出の第一歩!?」

1998年08月15日放映


旧タウト星に降下するためにシャトルを修理し、大気圏突入の準備を進める子供達。2機のRVをシャトルの翼の左右に乗せる形で彼らは大気圏に突入することになる。無人のジェイナスを周回軌道に残してシャトルは大気圏に突入。無事成層圏は突破したシャトルは予定の着陸地点を探すが、ポールが書いた地図の場所には目的の滑走路は存在しなかった。なんとか強行着陸に成功したものの、同行していたポールとリグレーはトラックを奪って姿をくらませてしまった。

子供達は旧タウト星に降下するために宇宙ステーションでシャトルの修理を進める一方、ジェイナスから物資の持ち出しをすすめます。カチュアとマキはシャトルの操縦席で機器の点検に精を出し、バーツとロディはシャトルの部品の交換作業を行います。そのシャトルにはRVを搭載するためのスペースがないため、彼らは何とかしてRVを地上に降ろすために方策をめぐらせます。そんな中、作業中の子供達の中をあちこち顔を出してまわるポール。バーツは前回ジェイナスを乗っ取ろうとした彼の素性を警戒し、出発の直前まではシャトルの修理が終わらないように見せかけることにします。
そのポールですが、スコットから収容所までの地図を書くように言われたものの、要領を得ない答えを返すばかりです。同じ頃、食堂の窓から寂しそうに旧タウト星を眺めるポールの妻、リグレー。どうも彼らが旧タウト星に降下する裏には何か子供達に知らされていない理由があるようです。
一方ロディとバーツは2機のRVに耐熱フィルムを巻き付け、背中にはパラシュートを装備して大気圏突入に備えますが、シュミレーションの結果成功の確率は21%と判定されてしまいます。対策を立てることを余儀なくされた彼らでしたが、結局ロディの発案によってバイファムとネオファムがシャトルの翼の左右に乗る形で大気圏に突入することになります。
無人のジェイナスを旧タウトの周回軌道に残し、13人+メリー+チェンバー夫妻を乗せたシャトルはゆっくりとステーションを離れます。入射角を計算しつつ、軌道を離れて大気圏に突入するシャトル。なんとか無事成層圏は突破できたものの、次はシャトルでの着陸という難作業が待っています。一足早くRVを離脱させ身軽になったシャトルは予定の着陸地点を探しますが、ポールが書いた地図の場所には滑走路がないことが分かり、シャトルは仕方なく干上がった湖への強行着陸を敢行します。マキの操縦でシャトルは無傷で接地に成功し、パラシュートで着陸したロディやバーツも無事再合流することができました。
しかし、ロディとバーツをジープで迎えに出たスコットのもとに、シャトルに残ったケンツから緊急通信が入ります。なんとチェンバー夫妻がトラックを奪い、姿をくらませたのです。あっけにとられる子供達、そしてトラックを運転し、一路彼らの目的地に急ぐチェンバー夫妻…。

…と、前の第19話に引き続き、子供達は再びチェンバー夫妻に騙されてしまう展開となります。のちの第23話で描かれるように、彼らチェンバー夫妻が子供達を騙してまで旧タウト星にやってきたのにはそれなりの「理由」が存在しています。その演出が視聴者を納得させるのに十分な演出だったかどうかはここでは敢えて問いませんが、彼らがそのためにたとえ一時的にであっても子供達を「騙す」ことになってしまったのは、バイファムの物語のポリシーである「立派な大人達」の像に反したものです。バイファムの物語に登場する大人達は誰もが子供達を守り抜くことを身上とする「立派な大人達」であり、オリジナルシリーズにおいてはこのルールづけが厳守されてきました(シリーズ終盤のアイゼルあたりになるとさすがに怪しいですが)。「13」に入ってから登場したホルテ、ルービン、ルルドといった大人達は多少のテイストこそ違うにせよ、少なくとも彼ら13人の子供たちに対しては裏表のない存在でした。彼らの立場がオリジナルシリーズの大人達と微妙に違っているのは、視聴者の年齢層が上がったことに伴って視点も変わっただけであり、基本的にオリジナルシリーズの大人達と並び立つだけの存在であったと思います。自分の任務を貫こうとする彼らが子供達のひたすら前向きな姿に影響を受けていく姿には、オリジナルシリーズ後半のミューラアやジェダ、ギャラクレーの姿がだぶって見えます。つまりバイファム世界の住人としては、「13」第1クールに登場した彼ら大人達は適切なキャラクターだったのです。
しかしこのチェンバー夫妻に関しては、そういった意味でそれまでの大人達とは明らかに異質です。最終的に子供達の強い意志の前に「改心」することになるという点では彼らもまた他の大人達と大差ありません。しかしこの前の第19話で彼らが子供達と合流して旧タウト星に向かうことになるまでのプロセスや、この回での「子供達を騙して大気圏突入→装備品を奪って逃走」という彼らの行動はまったくもっていただけません。特に前者についてはたまたま子供達が切り抜けたからよかったようなものの、ポールの企みが成功していたのなら4人の子供達はステーションの一室に閉じ込められたまま助けも呼べず、そして残りの子供達を人質に取ったチェンバー夫妻はジェイナスごと旧タウト星に突入、という展開になっていたと思われるからです(後者については論外)。このように「企図されながらも実現しなかった展開」に目を向けてみると、この旧タウト星篇の展開が根本的に間違っている部分が見えてきます。

いずれにせよ、彼らに騙される形で旧タウト星に降り立ってしまった子供達。彼らは見ず知らずの土地で、両親がいるとされる収容所の捜索を始めることになります。

■子供達だけでの大気圏突入というエピソードはオリジナルシリーズでも登場しており、今回はその話(第30話「決死の大気圏突入」)といかに差別化を図るか、スタッフの方が脚本・演出レベルで大いに苦心された跡がみられました(ちなみにオリジナルシリーズ第30話は平野氏脚本、今回は外池氏の脚本)。おそらくオリジナルシリーズを観ていた当時のファンは、バイファム以前に『ガンダム』の大気圏突入のエピソードを観ることによってはじめて「そうか、大気圏突入というのは大変なことなんだ」と認識したのではないかと思うのですが(筆者もそう)、オリジナルシリーズ第30話が「直前の敵の攻撃によって主人公機が単独での大気圏突入を余儀なくされる」という展開を忠実にトレースしていたのに対し、今回は突入の障害となる敵は終始登場せずにあくまで「子供達だけでいかにシャトルとRVで地上に降りるか」という点に焦点を絞った展開となっていました。そのため、どちらかというと子供達がシャトルでベルウィック星から脱出するオリジナルシリーズ第11話に類似したシチュエーション(無重力のシャトル内でふざける子供達や、カチュアがキーパーソンとなる点)が見られましたが、今回はまず成層圏を抜けるプロセスを描き、そしてその後に着陸場所を探すプロセスを描くといういわば「2本立て」の展開だったため、印象的にはオリジナルシリーズ第30話とはかなり異なった、独自の緊張感を持った話に仕上がっていたように思います(次の項に続く)。
■(前の項の続き)しかし、その手に汗握る展開をのっけからぶち壊しにしたのが冒頭からの非科学的・御都合主義的展開でした。第16話でプールを作ったビニールシートを使ってあっという間にRV用のパラシュートを作った上、意味不明の「耐熱シート」でRVをぐるぐる巻きにして大気圏突入をしようとするロディ達、電源を落としただけで周回軌道に無人のまま放置されるジェイナス、またポールから「降下地点から100キロ先に収容所がある」という情報を事前に入手していながら何の作戦もたてない子供達の行動にはいまいち納得がいきません(ちなみにポールの情報は虚偽だったことがのちに判明します)。スタッフの方もこのあたりの展開には自ら矛盾を感じておられるようで本篇中に説明的なセリフを多く用いていましたが、それがかえって全体のバランスを悪くしている感があります。観ている側からすると、制作にあたって「第19話はチェンバー夫妻が登場する話です。第20話は子供達が旧タウトに降りる話です。第21話は…」といった物語の大枠があまりにも見え過ぎているために先の展開が読めてしまい、まるで見どころがありません。個々のエピソードについては大いに見どころがあるだけに、せめて子供達が旅をしている目的と緊張感だけは維持した上で、全26話の物語としてムラのないストーリー展開を見せてほしかったところです。
■食堂の窓際で寂しそうに旧タウト星を眺めるポールの妻リグレーにお菓子を手渡し、もじもじしながら「おいしいよ」とつぶやき、走り去っていくルチーナ。そのお菓子を見つめて、初めてにっこりと微笑むリグレー。ルチーナのちょっとした気遣いが生んだ非常に印象的なシーンでした(このシーンは次の第21話の伏線となります)。ここでの2人の微妙な表情や仕種は絶品で、第10話のホルテ+ジミーに匹敵する名場面だったのではないかと思います。こういうシーンの描写はさすが近永氏(作画監督)だなあと感心した次第です。特にルチーナの「もじもじ」と席に戻った後の笑顔の対比は、無事にリグレーに言葉をかけることができたことでルチーナがほんの少しだけリラックスしたことを表現した絶妙のシーンだと思うのですが、いかがでしょうか。
■ポールがあちこちチェックして回るシーンで計4回用いられたBGMですが、実は第9話序盤のスコットとクレアの会話シーンでも使用されており、決して「ポールのテーマ」という訳ではありません。今回の使われ方はちょっとしつこかったですね。後半2回くらいは不要だったかと思います。
■ラストシーンでチェンバー夫妻が乗り逃げしたトラックはオリジナルシリーズのククト星篇で用いられたトレーラーと同一のものだと思われますが、あれはたしか右ハンドル車だったような…うーむ。結局このトレーラーは第26話で旧タウト星の地上に置き去りにされてしまうのですが、このあたりの不整合は単純な設定の解釈不足、打ち合わせの不足が原因と思われ、見ていて非常に気になるシーンです。
■この回制作側はひとつの「取り返しがつかないミス」を犯しています。それは、子供達が旧タウト星に降下する際、リフレイドストーンをジェイナスに置きっぱなしにしてきてしまったということです。いくら特務部隊のルルドが退却したとはいえ、彼が言っていたようにリフレイドストーンは「ククトの命運がかかった」存在です。物語の時間軸に沿って考えるとこのあとミューラアがリフレイドストーンを捜索に来るわけで、そのような重要なアイテムを周回軌道上に放置してしまう行為はストーリーの根幹を揺るがすことになってしまいます。この旧タウト星篇の混乱ぶりを表していると言ってしまえばそれまでですが、それにしても…。


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