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第15話
「危機一髪の大バトル!男性7人vs.女性7人!?」

1998年07月11日放映


子供達だけで航海を続けるジェイナス。しかし船体の修理などの作業の連続によって子供達のイライラはピークに達していた。そんな中で些細なことからバーツとマキが口論を始めたのが発端となり、男性陣と女性陣に分かれての戦争が勃発する。困り果てたスコットはゲームによって彼らを仲直りさせようとするが失敗に終わる。いざこざが徐々に仕事にまで影響を及ぼし始めたことでスコットは意を決して彼らを一喝するために食堂に向かったが、消火器のかけ合いの末彼らのストレスはすっかり解消されていたのだった。

この第15話から第18話はシナリオライター4氏による短篇競作といった形のオムニバスで、そのままオリジナルシリーズの中に組み込んでも無理のないエピソードが順を追って登場します。トップバッターとして登場したこの第15話では、伊東氏の脚本による「危機一髪の大バトル」が描かれます。男女が2派に分かれての大喧嘩というスタイルはここまでありそうでなかったパターンであり、そのスピーディーな展開、そして各キャラの個性を最大限引き出した内容は「13」を代表する名エピソードのひとつとなっています。

…タウト星に向かって再度出発したジェイナス。これまでの戦闘で傷ついた船体を修理する子供達ですが、そんな中、クルーが男女が分かれての戦争が勃発してしまいます。事の発端は(冒頭から伏線はいろいろとありましたが)ルチーナに好きなリボンの色を聞かれたバーツが「ピンクが女の子らしい」と発言したことでした。その言葉を女性差別だとしてバーツに突っかかるマキ、クレア、シャロン、ペンチ。止めに入ったロディも彼女たちの発言にキレてしまい、彼らは真っ二つに分裂してしまいます(オロオロするスコットの描写がいい)。「戦争の勃発」を宣言してブリッジを出て行く女性チーム。彼女達は自分達だけで食事を取り、そそくさと席を立ちます。腹を空かせたケンツ、バーツ、ロディの3人はフライパンに残されたパスタを発見して大喜びで食べ始めますが、そのパスタにはシャロンによって大量のタバスコがかけられていました。激怒する3人。彼らは復讐として女性陣の部屋の前に段ボール等の荷物を山積みにします。やられたらやり返すの繰り返し。スコットがキャプテンとして仲裁に入ろうとしますが、多数決を取ろうにもメリーを入れると男女同数。事態は悪化するばかりです。

困り果てたスコットは解決策として各チームから3人ずつを代表に選び、ゲームで決着をつけることを彼らに提案します。スコットは障害物競走とキャベツ切り競争を用意し、前者では男性チーム、後者では女性チームを勝たせることで引き分けに持ち込み、仲直りさせようと企みます。彼の予想とはまるで逆に障害物競走では女性チームのカチュア、キャベツ切り競争では男性チームのフレッドが優勝しますが、引き分けによる仲直りを主張するスコットは誰からも相手にされません。スコットの努力の甲斐もなく、冷戦状態は依然続くことになってしまいます。
そうこうするうち、スコットは対立の余波で仕事の引継ぎも満足にいっていないことをフレッドから聞かされます。彼は意を決し、彼らを一喝するために食堂に向かいます。
ちょうどその頃、つまみ食いがバレたケンツが女性陣の前でズボンをずり降ろされ、尻をはたかれるという屈辱を味わっていました。復讐のために消火器を持って女性チームがいる食堂に乱入するケンツ。火事だと勘違いして駆けつけたバーツとロディも巻き込まれ、たちまち消火器のかけ合いに発展する食堂内。しかし消火剤が尽きる頃、子供達のストレスはすっかり解消されてしまっていました。食堂に乗り込んできたスコットは、全員で楽しそうに後片付けをする彼らの姿を見て逆にショックを受けます…。

かくして、子供達は以前と変わらぬ状態に戻り、ジェイナスは旅を続けるのでした。

■シリーズを通して唯一とも言える、子供達が2派に分かれての大喧嘩のエピソードです。「長旅でストレスの溜まった子供達がささいなことで口論→大喧嘩」という筋書きなのですが、冒頭での状況説明がスコットのナレーションのみで済まされてしまったこともあり、視聴者にとっては喧嘩が始まるまでの展開が少々強引だった印象は否めません。しかしその後のテンポのよい展開によってこれらの不自然さは注意して見なければ分からない程度に留められている上、何よりスコットの発案で行われた「障害物競走」「キャベツ切り競争」というユニークなエピソードとこれまた意外な優勝者、そしてクライマックスの消火器の掛け合いのユニークさにより、おそらくオリジナルシリーズ第21話のエロ本話と並びファンの記憶に留められるエピソードに仕上がっています。全篇を通してのスコットのあまりの壊れっぷりには賛否両論あるとは思いますが、第1クールで活躍しきれなかった子供達のキャラクターが存分に描かれたという意味でこの第15話はファンの期待に応える珠玉のエピソードでした。この手の話がシリーズの中で1回しか使えないエピソードであることを念頭に置いた上での確信犯的な短篇であり、30分という時間が非常に密度の濃い、テンポのよい物語運びとなっています。
■この回の脚本の伊東氏と言えば、オリジナルシリーズ以来どちらかというと年長組をメインにエピソードを組み立てる機会が多かったわけですが、この回はそういった意味でも氏の「作風の幅広さ」を如実に見せ付けたエピソードでした。試行錯誤だった「双子の赤ちゃん&ラピス篇」の直後にこのような傑作が登場してしまったことは皮肉以外の何物でもありませんが、こういったエピソードこそまさにバイファムのキャラクターの魅力が凝縮されたものであることは間違いないでしょう。作画的にも、第1クールのクライマックスである第13〜14話で作画の近永氏を温存?し、この回に総力を結集した(たぶん)だけのことはあります。内容的にも監督の川瀬氏の得意分野といったところで、これほど子供達が生き生きと描かれた回はオリジナルシリーズを含めた中でも際立った出来。脱帽モノです。
■男女キャラ全員が2派に分かれての対決というユニークなシチュエーションの中で、13人の中での位置付け上あまり壊してはいけないキャラ(カチュア、ジミーら)は他の子供達と分けて描かれていたところに制作側の気配りを感じました。何よりこれまで築き上げられてきた彼らのキャラクターを壊さず、さらにそれらに新しい肉付けをする…というストーリー運びは、バイファムという物語に新たなエピソードを追加することの可能性を提示したものとして興味深い内容となっています。
■全篇コミカルなストーリー展開において「狂言回し」として物語を引っ張るスコットのキャラクターにはおそらく賛否両論あることでしょう。何か事件が勃発した時に彼が見せる「行動」についてはかつてのスコットの性格に忠実なものですが、その行動を起こすまでの「描写」については我々の持っているスコット像とはかけ離れたものです。ラストシーンでショックを受けて真っ白いギャグ顔になるスコット、彼を見たテレビの前のスコットファンもおそらく同じような真っ白い顔になってしまったことでしょう。まあ、個人的には今回の話にはマッチしていたと思うんですけどね。
■スコットがクレア達に八つ当たりする冒頭部分ではオリジナルシリーズの第20話と酷似する部分がありました。本篇の方はオリジナルシリーズの第21話に加え、OVA3巻の雰囲気を併せ持っているという表現が適切でしょうか(同じ伊東氏脚本によるオリジナルシリーズの第39話とシンクロする演出もありました)。今回は各キャラ同士の関係が定まっていなかったオリジナルシリーズの前半の雰囲気を残しつつ、さりげなくフレッドを気遣うペンチ、同じくカチュアを気遣うロディなど、各キャラの繋がりについてはしっかり押さえられていました。他にも男勝りなマキの性格や、クルーの母親役でありながら実は不器用であるクレアの設定もうまく生かされていて、見ていてうなってしまいました。 あと作画的には、専門用語で言う「送り(同じコマの繰り返し)」の多用がいい味を出していました。消火器を掛け合うシーンの動きのなめらかさ、各キャラのユニークな動きは必見です。
■サブタイトルにある「7人目の女性」はククト山羊のメリーのことでした。双子下船後もジェイナスに残った彼女?ですが、なんだか妙にスコットとの絡みが多いです。特にこの回はオチに登場するなど、「13」における欠かせないキャラクターの一人となっています。
■冒頭でジェイナス船体を修理するバイファムらRVの持っている粘着スプレーガンは「13」にあたって新しく起こされた設定で、用途に応じて何タイプか用意されているようです。またバーツ達とスコットの会話の中ではジェイナスの装甲が何層にも分かれている説明がありました。当たり前のこととはいえ、傷ついたジェイナスが修理される描写はオリジナルシリーズではほとんどなかったわけで、その意味でも注目される描写でした(バイファムに銃を突きつけられて両手を挙げるネオファムのシーンはユニーク)。
■カチュアが障害物競走の網を登っていく時の腰つきは妙にクネクネしていて目が行きます(別に露出度が高いとか、見えそうで見えないとかではないんですけどね)。あとはマキのタンクトップ姿とか、ロディの赤シャツとか、ファン大喜びの描写は他にもいろいろとありました。そちらの方でもなかなかファンのツボをついた回でした。お約束中のお約束とも言えるケンツの蒙古斑もありましたしね。
■この第15〜18話は短篇競作であると同時に「ボギー不調篇」、つまりジェイナスのメインコンピューターであるボギーが不調をきたすことで事件が起こる…というスタイルが取られています。この第15話についてはボギーの不調が直接事件の引き金になるわけではなく、冒頭でラピスの母船であるキエフ号を正体不明艦と誤認するシーンが唯一の「ボギー不調」の伏線でしたが、次の第16話以降ボギーの異常は顕著なものとなり、直接ストーリーに直接絡んでくる形となります。
■最後に一言。「Bパート開始後6分32秒の後ろ向きのクレアの髪型、手足があるみたいで妖怪っぽいっス」今回は以上。


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