[TOP]



【←前の話】 【放映リスト】 【次の話→】

第7話
「乗せる、乗せない!13人の大決断」

1998年05月16日放映


ラピスの小型艇がジェイナスに再接近。船内では彼女たちの乗船を巡って子供達の意見が真っ二つに割れるが、結局地球軍の情報を探るために乗船を許可することに。しかし収容された小型艇にはククト軍の発信機が仕掛けられており、ジェイナスへのビーム砲撃が始まった。ホルテは誤解を解くために自ら人質となり、ルービンに対し攻撃を止めさせるためにルルド艦隊に説得に向かうよう指示する…

難民保護組織ラピスの一員であるホルテとルービンが実際にジェイナスに乗り込む回です。双子の赤ちゃんに続いてジェイナスにやってきた新キャラクターが子供達と行動を共にすることにより、これまで見ることのできなかった新たなエピソードが生まれることになります。このあたりの構造はオリジナルシリーズ第35〜38話の「ククトニアン少年少女篇」と似たものであると言えるでしょう。
ただ、双子の赤ちゃんが登場して間もないこの時期に彼女達がジェイナスに乗り込んでしまったことにより、物語は明らかに「消化不良」の様相を呈してきます。もともとバイファムという物語には13人の登場人物が存在しているわけですが、この第7話でホルテとルービンがジェイナスに本格的に合流して登場人物が17人(+1匹)となって以来、回によって物語の視点が異なるという、ドラマとして見た際極めて不安定な展開が連続することになります。続く第8〜10話は「いかにしてホルテとルービンが子供達に認めてもらうか」というストーリーが描かれることで、赤ちゃんは単なるオマケ的役割に終始してしまいます。ところが続く第11〜13話では一転して子供達の視点を中心としたストーリー展開に戻ってしまうなど、制作側も明らかに書き分けに苦労しているのが分かります。これがもう少し話数をかけてじっくりと描かれたのなら話は違ったでしょうが、この第1クールはホルテ達がジェイナスに乗り込んだことによって個々のキャラクターの印象が弱くなってしまった上、同じククトニアンであるはずのカチュアとホルテに何の接点も生まれないなど、視聴者が当然予想しうる展開が見られないギクシャクしたストーリー運びになってしまった印象は否めません。

…依然地球軍とのコンタクトが取れないまま航海を続けるジェイナス。そんな時、前回いったんジェイナスから離れていった難民保護組織ラピスの小型艇がジェイナスに再度接近し、接舷を求めてきます。船内では彼女たちの処遇を巡って意見が真っ二つに割れます。コンタクトを取ることを主張するクレアやペンチ、スパイだと言い張るケンツ、そして間で頭を悩ませるスコット。彼女たちを船内に入れて地球軍に関する情報を聞き出すべきだというロディの案により、彼女たちは厳重な警戒の中ジェイナスに収容されます。大人達が乗船していないことを悟られないようにするため、スコットが少年兵を装い(この変装はオリジナルシリーズ第22話がモチーフとなった展開です)、小型艇から降りてきたホルテに接触します。スコットは艦長から全権を委任されたふりをして情報を聞き出すためにホルテとの話し合いに臨みますが、案の定ボロを出してしまい、赤ちゃんが船内にいることがホルテの知るところとなってしまいます。しかしホルテは少女兵に変装したクレアが連れて来たククトニアンの双子の赤ちゃんを見て警戒を解き、スコット達に地球軍とククト軍の情報を話し始めます。
その最中、ボギーが小型艇から発信される謎の電波をキャッチします。それはラピスの小型艇に仕掛けられたククト軍の発信装置でした。発信された暗号によってルルド艦隊によるジェイナスへのビーム砲撃が始まり、時を同じくしてケンツ達が小型艇に取り付けられた集音マイクを発見したことでホルテ達への疑惑は一層深まります。ホルテは疑いを晴らすために自ら人質となってジェイナスに残り、ルービンには説得のためルルド艦隊に赴くように指示をします。

…というわけで、今回は前の第6話同様次に来るストーリーの大きなヤマのためへの前フリといった展開でしたが、ここまで独自の動きを見せていたホルテ達とルルド艦がジェイナスを中心にようやく一点で交わりました。ジェイナスの乗組員が子供達だけであることをいまだ知らないホルテ、そしてリフレイドストーン奪回のためにジェイナスに迫るルルド艦。次回はジェイナスへの攻撃を巡り、彼らの間での緊迫した駆け引きが見られることになります。

■新キャラクターであるホルテの年齢設定は27才。オリジナルシリーズで言うとケイトとひとつ違いということになりますが、ケイトと異なり彼女は最後まで子供達を導くことはできません。彼女はあの手この手で子供達を難民収容所に保護しようとしますが、彼女の思惑通りに事態は進まず、最終的に彼らは結局独力でタウト星に向かうことを選択することになります(第14話)。もともと「13」という作品はオリジナルシリーズから15年後に制作された作品でありながら、対象とする視聴者層は15年前とまったく変わっていない(つまり同一)という稀有な構造を持っています。
この物語において、ホルテはオリジナルシリーズを見ていた視聴者の現在の平均年齢に非常に近い存在です。つまり彼女はオリジナルシリーズ放映当時から「バイファム」を見続けている視聴者の分身として、劇中に視聴者の視点を持ち込むための存在であり、「13」の(第1クールの)物語は、あくまで彼女の視点から見た物語だったことになります。13人の子供達と視聴者の年齢がほぼイーブンで視聴者が彼らに感情移入できた15年前と異なり、この「13」では「ホルテの立場から13人を見守る」という構造になっているわけです。
筆者自身はこの構造については肯定派です。新しい視聴者層をターゲットにしているのならまだしも、15年後に再び当時と同じ視聴者に対してシリーズを作らなければならない以上、同世代の視点を劇中に持ち込むというこのアイデアは非常に優れていると思います。
ただ、この構造が視聴者に受け入れられたかというと残念ながら答えは「NO」でしょう。視聴者が見たかったのはあくまで当時と変わらぬ13人であり、視聴者は「童心に帰って」バイファムという作品を見たかったわけです。特に当初子供達の視点からスタートした「13」が、ホルテが本格的に物語に関わり始めたこの第7話から徐々に視点が移り変わっていくという形を取らざるを得なかったのは大きな違和感を感じさせる結果となりました。第9話の項で後述しますが、ホルテが子供達に受け入れてもらうために奔走する様子が物語の軸となってしまったのは、シリーズ全体を見た時少々バランスが悪いと言わざるを得ません。もし、ここで子供達と視聴者に自らの存在をを認めさせたホルテが、その後最低1クール程度彼らと同行するのであればまた話は変わってきたと思うのですが、結局彼女はそれからわずか数話後の第14話で物語から退場することになります。そういったドタバタした展開と併せ、この第7話からのホルテの乗船は「13」というシリーズにとって大きなリスクを伴っていたと言えます。
■ラピスの小型艇にククト軍の発信機が取り付けられており、その信号をルルド艦が傍受していたという事実は、この直前に小型艇とルルド艦の間に何らかの接触があったことを示すものです。しかし劇中のホルテのセリフでは、この空域にククト軍の特務部隊が展開している「らしい」と、直接遭遇したことを否定するニュアンスの発言がなされています。また、続く第8話ではルービンが直接ルルド艦に乗り込んで艦長のルルドと会見するシーンがありますが、そこでもルービンがこの発信機の存在について一言も触れないなど、これら一連のシーンは非常に不可解であり、その後も明確な説明は得られませんでした。何故このような演出がなされたのかは不明ですが、これらのシーンは視聴者に「ひょっとするとホルテ達とルルドは裏で繋がっているのでは?」という余計な疑いを抱かせる結果となってしまいました。「双子の赤ちゃん&ラピス篇」の大きな謎のひとつであると言えます。
■この回は赤ちゃんの名前ネタが冒頭から炸裂。「ロディJr」「バーツJr」のネーミングで混乱する本人達、勘違いしたバーツがロディのお尻をさわるという爆笑シーンもあります。ちなみに「お尻にほくろがある方がバーツJr」だそうです。
■アバンタイトルで制服姿のスコットとクレアが登場した時は一瞬「誰?」と思ってしまいました。スコットが軍服を着用するというアイデアは言うまでもなくオリジナルシリーズ第22話をモチーフとしたものですが、今回はカメラを通して演技をするのではなく、「少年兵」として直接ホルテと接する、という役どころです。 うーん、ああいう服装もいいなあ(あ、クレアの話ね)。
■この第7話から本格的に子供達とホルテとの接触が始まるわけですが、異星人であるククトニアンに対する子供達の緊張感があまりにもない点はさすがに気になります。また同時に、ククト側の内幕があまりにも多く描かれる展開は少し違和感がないでもありません。もう少しククト側をミステリアスな存在として扱い、13人の子供達の視点を中心に演出してもらいたかった気がします。
■この第7話におけるルービンの役回りには非常に違和感があります。リーダー格でありながらおっとりしていて、随所で「天然」ぶりを見せるホルテに対し、ルービンは年下でありながらも実践の場面において彼女をしっかりとサポートします。それがこの第7話においては、ルービンは交信チップに気付くシーンで道化役を演じることになります。もっとも、ケンツに向けられた銃を払いのけるシーンなどでは本来の「彼女らしさ」が見え隠れしているのですが、このシーンは本来の彼女の役割からすると妙な役回りだったといえます。
■ケンツがライブラリールームから探してきた戦争映画をもとに、軍人の声を船内放送で流してホルテ達を信用させようとするシーンがあります。探してきたのが海軍の映画だったためこの作戦は失敗してしまうのですが、オリジナルシリーズ第18話に登場したライブラリールーム(この時は「ムビオラルーム」と呼ばれていました)の存在をさりげなく持ち出すあたりはオリジナルシリーズのファンを唸らせる演出です。

[ トップページ ]